The less volatile market, the easier life!

資産クラス毎の値動き分析、各種株価指数イベントの考察、アノマリーの検証、225オプションのリスク管理備忘録です。日本株&デリバティブの運用と金融翻訳で生計立てています。

東証1部昇格銘柄の道中リターン考察

東証1部昇格は、パッシブファンドの買い需要が発生するため、当たれば大きなリターンを見込める。この昇格前の投資の肝は、候補銘柄の選別と投資タイミングである。前者は、昇格に必要な形式要件の充足状況のスクリーニングやコーポレートアクション履歴から企業の本気度を見極めることである程度対応できる。一方、後者は難しい。まさか企業のIR担当に昇格予定はありますか?などと聞く訳にもいかず、過去の事例から傾向を探るしかない。

さて、銘柄を絞り込んだとして、いつ入ったらいいのか?道楽で投資を行える身分なら、数打ちゃ当たるでいいのだろうが、待てど暮らせど昇格しないとなると厳しい。候補銘柄は低流動の小型銘柄が中心になるはずであるが、そうした銘柄は市場流動性が干上がると株価の下げもきつくなる。また、グロース系銘柄であれば決算発表を通じた株価変動リスクも増す。ヘッジをしようにも最適なツールがないので、十分な市場流動性がある金融相場以外での長期保有には向かない。

その意味では、「昇格前」投資は難易度が高い割に妙味は薄かったりする。むしろ、「昇格後」に買っても一定のリターンが見込めるならば、その方が資金効率的には良かったりする。

下図は、2012年~2019年までの東証1部昇格銘柄の承認翌日引けからtopix組入前日引け迄の平均道中リターンである。青は全昇格銘柄ベース、赤は昇格時に新株発行や売出のない銘柄ベース(w/o PO)、緑は赤のうち買い需要が平均出来高の10日以上の銘柄ベース(DTC>10)。下表は、それぞれの銘柄数を示している。

全銘柄ベースで、承認翌日のアナウンスメント効果を除いてなお概ね平均10%前後のリターンが観察される。最長2か月の放置playで得られるリターンとしては十分である。当然ながら、w/o POやDTC>10の銘柄群に絞ればリターンは更に高まる。但し、ごく稀に昇格ゴールのハコ系銘柄のような地雷があるので注意が必要である。

f:id:onemonth85putseller:20201006044830p:plain

ここ数年は全銘柄ベースの平均道中リターンが低下傾向を示している。これは、分売や分割等のコーポレートアクションに合わせて東証1部申請の予告を行う企業が増えていることに起因していると考えられる。こうした銘柄の中は、既にアナウンスメント効果で上がっているケースが多く、道中リターンは小さくなりがちである。また、2018年の平均リターンがマイナスに沈んでいるのは、業績相場から逆金融相場への移行で市場流動性が低下したことや、米中貿易戦争の激化による不透明な相場環境が長期化した年であることが影響したと言える。

今後も、東証1部申請予告無し且つ低流動(=本尊の買いインパクト大)の昇格銘柄が一番の狙い目であるが、東証が予定している市場区分の見直し(2021年6月末に移行基準日、2022年4月1日に一斉移行日)でゲームのルールが変わる可能性があることには留意したい。

https://www.jpx.co.jp/corporate/news/news-releases/0060/nlsgeu000004ke6p-att/J_kouhyou.pdf

市場区分の見直しの中身は、株主数要件を緩くし、それ以外の要件を厳しくするというもの。仮に、現在のtopix連動のパッシブファンドが区分見直し後は最上位市場である「プライム市場」連動のパッシブファンドだけで代替されることになると、昇格ハードルが高くなる分、これまで高い平均道中リターンを見込めた低流動の小型銘柄の「プライム」昇格は見込めなくなる。尤も、「プライム」移行基準を満たしていない現東証1部銘柄でも当面は「プライム」居座りが可能となる経過措置もあるため、すぐにそうなるということではないが。また、株主数要件の緩和で優待新設のインセンティブは低下し、優待廃止をする銘柄も増えるかもしれない。

                                                                                                                                               

本内容にある見積、予測、予想に関する情報が正しいとは限りません。また、本内容は特定の銘柄、取引を推奨するものではありません。取引に当たっては、ご自身のご判断でお願いします。売買で被られた損失に対し、著者は何らの責任も持ちません。