The less volatile market, the easier life!

資産クラス毎の値動き分析、各種株価指数イベントの考察、アノマリーの検証、225オプションのリスク管理備忘録です。日本株&デリバティブの運用と金融翻訳で生計立てています。

Weekly Market Summary: 2023/1/27

1/23-1/27: インフレ減速&底堅い経済指標から株式市場は堅調。企業決算はまちち。引締維持姿勢のFRBと緩和転換期待の株式市場との認識ギャップ拡大。

 

 

今週回顧

米株は、インフレ減速確認強化に加え、先週とは逆の景気底堅さを示す経済指標を受けてしっかりの展開(下表参照)。WSJの「FRBの利上げ停止検討」観測報道やカナダ中銀の利上げ停止の可能性言及もセンチメント改善に寄与。企業決算は、マイクロソフトインテル半導体関連の失望決算の一方で、テスラやアメックスの強気見通しがあったりまちまちで、市場全体への影響は限定的。 

米国債利回りは小幅高。景気底堅さを示す経済指標からインフレ期待主導で実質金利は低下した。ボラティリティは株式・債券共に低下継続(下図参照)。コモディティでは、暖冬欧州を反映して天然ガスが下げ止まらず、木材はボトムアウトから反発継続。

 

金融政策と景気見通しに対する市場間認識ギャップ

現状の金融政策(縦軸)と景気見通し(横軸)に対するFRBと株式市場の認識ギャップは、年初来の米株高のせいで一層拡大している。FRBが株式市場の見方に同調する可能性は低いため、2/1のFOMCでパウエル議長どの程度厳しい牽制発言を行うかが、株式市場の目先の方向感を決めることになりそう。

 

 

 

 

                                                                                                                                               

本内容にある過去データ及び将来の見積、予測、予想に関する情報が正しいとは限りません。また、本内容は特定の銘柄、取引を推奨するものではありません。取引に当たっては、ご自身のご判断でお願いします。売買で被られた損失に対し、著者は何らの責任も持ちません。

 

Weekly Market Summary: 2023/1/20

1/16-1/20: ダボス会議の参加者からは、インフレ減速、エネルギー価格の低下、中国の本格的経済再開等を踏まえた前向きなコメントも散見されるが、、、

日銀政策決定会合の現状維持と週末ダボス会議での黒田総裁の金融緩和継続強調で円高&日本株安は小休止も、マクロ面の不透明感は今年の日本市場の重しに

 

 

今週回顧

米株は、インフレ減速を好感も、総じて悪化が目立つ景気指標を受けてもタカ派姿勢を崩さない一部FRB高官の発言を警戒したかと思えば、一部のハト派発言に安心したりと足下が覚束ない状況(下表参照)。金融にしろハイテクにしろ決算はまちまちで、思った程悪くはないが、良くもない状況。市場参加者のセンチメントも強弱が対立といった感じ。中国の本格的な経済再開への期待は続き、アジア株の堅調ぶりも継続。日本株は、ドル円の落ち着いた動きにほぼ連動する形で小幅高。

金利は、実質金利主導で小幅に低下。常に政策当局に先んじて景気後退からの金利低下を織り込んできた債券市場からすれば、足元での当局による利上げ減速姿勢の高まりは何を今更といったところか。

米ドルは軟調が続く。ドル円も日銀の政策据置直後は急反発もすぐに押し戻される展開だが、黒田総裁の金融緩和継続強調発言もあり、大きく下値を試す流れは起きていない。一方で、仮想通貨の上げ潮は続くよ、どこまでか?コモディティはまちまちの動きの中で、材木の急伸が悪材料出尽くしからなのか目立つ格好。

 

日銀政策決定会合の前後の日経225オプション2月限の建玉動向

昨年12月の日銀による長期金利の変動許容幅の拡大決定を受けて、今年は4月までに限れば、日銀絡みの丁半博打ネタが多い。今月は昨年12月に引き続いての政策修正があるのか?、2月には日銀総裁人事を控え、3月には黒田総裁最後の政策決定会合があり、そして4月は新総裁の下で初の政策決定会合がある。

今回は1/12の読売新聞による「追加の政策修正の可能性もあり」との憶測報道に煽られて、有象無象がポジション張りに大きく動いたと思われる。当初は、YCC再拡大やYCC撤回から末はマイナス金利の解除まで念頭に置くような極論も聞かれたが、徐々に現状維持のコンセンサスに収斂していったように見える。1/13と1/16の2日で600円超下落した日経225も、会合前日の1/17はポジション巻き戻しに伴うショートカバー主導で300円戻して引けた(下図参照)。

しかし、一定数の投機筋が参入していたことは、日経225オプション2月限の建玉動向からもうかがえた。会合前日の1/17には230~240の90%前後のストライクのPutの建玉残が大幅増となっており、新規Put買いを中心とした(新規Call売りを含む)デルタショート仕掛けでイベントに備えたと思われる(下図参照)。

そして、当日の「現状維持」の結果を受けて昼休みの日経225先物は瞬間的に3%弱の急上昇。上述のPut買い(Call売りを含む)の損切りが行われた。Put側は250前後のストライクを中心にIVの低下を伴いながらこの日も建玉残が増えていることから、ロールアップを含む新規買いだけでなく新規売りもかなりあったと思われる。

一方、Call側は焦った売り方が薄い板の中で買戻しを迫られ、わずか数枚の商いでトンデモ価格が付く一時的なミスプライスが散見された。しかし、後場の日経225指数に膠着感が強まるにつれて、新規売りも入る形でIVも急低下するという日常の光景に戻った。

例えば、前日の先物終値ベースで110%ストライクになる287Callの価格は6円であったものが、瞬間的に30円を付けた後に引けは12円であった。30円で売れた人に秘訣を聞いてみたいものである。満期まで3週間超もあり、相対的にガンマよりベガが大きなこうしたCallでは、既存の売り方が焼け出されるものである。日経225指数が連日の大幅変動ともなればIVカーブも上方浮揚するが、結果論とは言え、イベントに伴う変動が短期の場合、IVの旬はうたかたである。

 

 

 

 

                                                                                                                                               

本内容にある過去データ及び将来の見積、予測、予想に関する情報が正しいとは限りません。また、本内容は特定の銘柄、取引を推奨するものではありません。取引に当たっては、ご自身のご判断でお願いします。売買で被られた損失に対し、著者は何らの責任も持ちません。

 

Weekly Market Summary: 2023/1/13

1/9-1/13: 株式市場は好調な米欧香港vs軟調な日本でパフォーマンスのデカップリング続く、日本株は日銀引締転換の観測強まりから円高加速が足枷

 

 

今週回顧

米12月CPIや1月ミシガン大学短期インフレ期待の低下を受けて、インフレ減速軌道入りが鮮明となり、早期の緩和転換への論拠を強める恰好で米株高・米債券高・ボラ下げ・ドル安につながった。FRB高官の目先の利上げ幅低下を肯定するハト派発言が相次いだことも好感された。リスク選好姿勢は、仮想通貨の急回復からもうかがえた。実質金利の低下を追い風に金が1,900ドル越えとなり、ドル安や中国の需要増加期待を反映して原油や銅も買われた(下2表参照)。

尤も、日本株長期金利の上昇と円高加速が向かい風となり、米株に比べて低調な値動きとなった。物色的には、中国の需要回復期待を囃した鉄鋼や来週の日銀政策決定会合での再度の利上げサプライズへの思惑買いで弾みがついた金融の上昇からTopixの堅調ぶりが目立つ一方、ユニクロの失望決算も響き日経225は低調となった(下図参照)。NTレシオは先月の日銀政策決定会合以降で14倍割れが定着し、ジリ安の傾向が続く。

 

米12月CPI発表当日の動き

今や雇用統計以上に注目度の高いCPIだが、3か月連続の予想下振れ期待を織り込む形で株式市場は事前上げに動いていた。しかし、結果はきっちり予想通りで着地し、中味も先週の雇用統計で確認された賃金伸び率の低下とは整合しないサービスコストの上昇継続という好ましくないものであった。また、同時に発表された新規失業保険申請件数も予想を上回る低下を見せたため、株式市場の反応は下落と見ていたが、、、

確かに当初は下げた。事前期待の高さから、結果が予想を下回らなければ、市場の反応は失望売りというのが常識的な想定である。しかし、毎度おなじみの後講釈で、インフレと利上げのダブル減速が意識された上、FRB高官のハト派発言で金利低下に弾みがつき、イベント通過でボラティリティも急低下し、株式は上昇ということらしい。

一方、夜間の日経225先物は、読売新聞の12日引け後の「日銀が17、18日の金融政策決定会合で大規模緩和の副作用を点検し、必要な場合は追加の政策修正を行う」との報道をきっかけに、政策修正観測の強まりから円高が加速し、米金利の大幅低下を受けた米ドル安も足枷となり、軟調な展開に終始した(下図参照)。

 

ドル円の日経225変動に対する説明力高まる

今年は、日本側の日銀総裁交代を控えた金融政策の引締転換への思惑に加え、「利上げ&増税で極楽浄土」念仏を唱える財務真理教熱烈信者の岸田内閣の存在が円高圧力として燻り、一方で米国側でも利下げや量的引締解除といった緩和転換への思惑がドル安圧力として働きやすいため、日米両側から円高ドル安の流れが想定される(下図参照)。

昨年はドル高に支えられ、グローバル比較で相対的優位に推移した日本株だが(下図参照)、今年は利上げと円高がダブルパンチとなり、相対的劣位の推移となることが懸念される。

実際、日経225の変動に対する説明要因としてドル円の説明力が先月の日銀政策決定会合以降で大きく上昇している一方で、米ダウ平均の説明力は低下している(下図参照)。米金利低下を受けて米株が上昇しても、ドル安の方がよりネガティブに日本株に働くという状況である。今年は円買いと日経225売り(NTレシオ売り)が有望トレードの予感。

こうした想定の背景にあるのが2007年相場とのマクロ環境的な類似性がある。前年の2006年半ばの米国はGDPギャップがプラ転直前にあった2004年6月に開始した利上げ局面の最終盤にあったが、このタイミングで日本は量的緩和を解除して後、2007年2月には無担コール翌日物レートを0.25%から0.50%へ引き上げる周回遅れの利上げを行っている。そして、2008年のリーマンショックを先取りする形で起きた2007年8月のパリバショック後の9月に米国は利下げを開始し、その後は円高ドル安の流れが定着して日本株の相対的劣位が続いた(下2図参照)。

 

 

 

 

                                                                                                                                               

本内容にある過去データ及び将来の見積、予測、予想に関する情報が正しいとは限りません。また、本内容は特定の銘柄、取引を推奨するものではありません。取引に当たっては、ご自身のご判断でお願いします。売買で被られた損失に対し、著者は何らの責任も持ちません。

 

Weekly Market Summary: 2023/1/6

1/2-1/6: 雇用逼迫を裏付ける経済指標、需要減速を見越したアップル&テスラの生産調整、多くのFRB高官はタカ派姿勢堅持等あっても、株式市場のやめられない楽観の性

 

 

今週回顧

今週は雇用関連データの発表が集中し、いずれも堅調な結果となったが、米株の反応は相変わらずのちぐはぐ感。JOLTやADPの大幅上振れに対しては利上げ長期化の警戒感から下げ優勢となったが、アップルやテスラの需要減速対応の生産調整ニュースも重しになっていた。一方で、雇用者数上振れ&失業率低下&平均時給下振れと強弱混在の雇用統計に対しては、発表直後に直前の上げを消したものの、その後は平均時給下振れが殊更に好感されたらしくジャンプアップ。FRB高官の判で押したようなタカ派牽制や製造業に続き非製造も50割れとなったISMも意に介さない強さは想定外であった(週末雇用統計発表前後の日中指数推移、下図参照)。

欧州株は、コアCPIの高止まり感は残るものの、総合CPIの伸びが10%を切るなどインフレ鎮静化の流れが好感され、米株を引き続きアウトパフォームした。一方、日本株は日銀の引締転換や総裁人事を巡る思惑から円高圧力が足枷となって低迷する等昨年とは対照的な動きが象徴的。

ボラティリティはグローバルで凪状態が続く。株式も債券も足元のインフレ減速の足取りを確かなものと見極め、金融政策面での不確実性はもう見切った感が出ている(下2図参照)。来週発表の米12月CPIが想定通りの減速で着地すれば、目先は低ボラティリティが強化されそう。次に米株のボラティリティがピックアップするとすれば、ミクロ面の不確実性が顕在化する可能性がある決算発表か?来週後半から金融大手の決算発表が始まり、下旬にかけてGAFAMの決算発表を控える。

日経225オプションの直近6限月の満期まで35日(カレンダーベース)時点のIV Smile Curve(下図参照)を見ると、昨年10月限に比べて概ね5ベガも低いことが確認できる。

昨年12月のFOMC議事録でも確認された通り、FRBは今年中の利下げを見込んでいないが、金利先物市場は政策金利が年央で5%強の天井を付けた後に年末までの約40bsps程の利下げを織り込んでいる(下図参照)。

こうした認識の不一致が続く限り、波乱の芽は内在し続けると見たほうが無難であろう。当局のタカ派姿勢が長期化するればする程、やがてはリセッションの深刻化による株式市場の下げのダメージも大きくならざるを得ない。債券市場は一足早く景気後退を織り込んでいるが(下図参照)、株式市場が楽観の性を打ち捨て、株式自警団として急落アピールして初めて、当局も緩和転換となるのか。

コモディティは、実質金利の低下を受けた金の堅調ぶりが目立つ。原油天然ガス等エネルギーや穀物実体経済悪化の懸念から軟調なものが目立つ。

 

短期の相場観は当たらない、勝ち目の薄い丁半博打

今週も景気指標に対する株式市場の反応は理屈に合わないちぐはぐなものであった。理屈の上では下がるのが理に適うと思っても、市場参加者の情念のうごめき一つ一つが正負いずれかのフィードバックループとなって相場の道筋に紆余曲折をもたらすため、短期の反応を読むのは一筋縄ではいかない。

ケインズの例え話にある「株式市場=ビューティーコンテスト」では、株式投資に関して、自分の相場観ではなく市場参加者の多くが判断する相場観を選ぶことが有効な投資方法であると言われているが、これは長期投資に当てはまる話である。

 

 

 

 

                                                                                                                                               

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Weekly Market Summary: 2022/12/23

12/19-12/23: サプライズ偏執狂の黒田日銀ショックから日経225指数は週次ベースで今年2番目の下落率を記録

 

 

今週回顧

週前半は、12月FOMCでの当局のタカ派姿勢再確認で積極利上げ継続からのリセッション懸念がくすぶる中で、米株&米債券のコンボ安の展開となった。そして、日銀の唐突な長期金利許容変動幅拡大によって、緩和アンカーの日本が事実上の利上げ転換に踏み出したことから、日本の債券投資のリパトリが警戒され、グローバル金利に上方圧力をもたらした。

黒田日銀総裁は就任直後の2013年4月には異次元緩和開始のいわゆる「黒田バズーカ砲」で市場にポジティブ・サプライスを引き起こし、来年4月の退任を控えたこの時期に「YCC修正やらない詐欺」でネガティブ・サプライズで締めた。

進軍ラッパも撤退ラッパもない市場との事前対話を意に介さないコミュニケーション・スタイルの是非はさておき、サプライズ偏執狂ともとれる黒田氏のこのタイミングでの利上げ決断は、今年夏場以降から日銀のYCC修正に賭けて"Widow Maker Trade"を仕掛けていた海外ヘッジファンド筋への大きなクリスマス・プレゼントになった一方で、寝耳に水の一般投資家にとっては無用なボラティリティだけを残す形となった。

日本が周回遅れで利上げに乗り出すのには既視感を覚えるが、結局は最後にばばを引くことになることが懸念される。米FF金利先物市場では、来年6月の5%弱を天井に来年末には約40bpsの利下げが織り込まれているが、来年後半には欧米緩和転換 vs 日本利上げ継続の構図となるのだろうか?

週後半は、ポジティブな景気指標に対する株式市場の反応がまちまちになる展開となった(下表参照)。21日(水)の米消費者信頼感指数の上振れに対して利上げに耐えうる米景気の底堅さが意識されての株高になったかと思えば、翌22日(木)の米7-9月期GDP確報値の大幅上方修正に対して引締継続が懸念されて株安で反応といった具合であった。"Eventful"な状況で非常に展開が読みづらい印象が強く残った週であった。

 

景気指標に対する株式市場の反応

景気指標等の市場材料に対する株式市場の反応は、相場サイクルに応じて、景気見通しへのインパクトと政策見通しへのインパクトのいずれを重視するかで異なるのが一般的と考えられる(下表参照)。

今年は、インフレ高進を受けた政策金利の急ピッチでの引き上げを通じて、株安(PER低下)&債券安が進行した逆金融相場で特徴づけられる。逆金融相場においては、悪いニュースに対しては景気悪化懸念が、良いニュースに対しては引締懸念がより意識されることで、ニュースの良し悪しにかかわらず株安となる傾向が強い。

一方、政策金利の天井感が強まっても、高水準の政策金利が維持されることで、業績悪化に伴う株価の大幅修正(EPS低下)がなされると、悪いニュースに対しては緩和期待が、良いニュースに対しては景気回復期待がより意識されることで、ニュースの良し悪しにかかわらず株高となる傾向が強くなる。

この12月は、こうした傾向に反する形で、ちぐはぐな反応を示すことが多かった。悪いニュースに対してはリセッション懸念が意識されての株安もあれば、引締懸念の後退が意識されての株高もあった。また、良いニュースに対しては引締懸念が意識されての株安もあれば、ソフトランディングが意識されての株高もあった。こうした天邪鬼的な相場展開はリセッション入りを懸念しつつも織り込みたくない株式市場の現状維持バイアスの所為か?

 

 

 

 

                                                                                                                                               

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Weekly Market Summary: 2022/12/16

12/12-12/16: 「露と落ち 露と消えにし 緩和期待 戻り相場も 夢のまた夢」

 

 

週間回顧と来週展望

週前半は、2か月連続の大幅減速となったCPIを受けて、早期の緩和転換に対する論拠が強化され、それなりの上昇を見せた米株式市場ではあったが、前回11月FOMC後と同様に、今回のFOMCでもパウエル議長のタカ派強硬姿勢が再確認されたことで、高金利持続からの景気後退懸念が再燃し、結局はぬか喜びに。

FOMCメンバーの政策金利見通しは、前回9月から大幅に上方修正され、2023年が50bsp上昇の5.1%に、2024年が25bps上昇の4.1%に、2025年も25bsp上昇の3.1%となった。前回9月は2023年の利上げを1回(25bps)と見込んだが、今回は3回(75bps)に引き上げられた。その反動で、2024年の利下げは前回9月の3回(75bps)から4回(100bps)に増えた格好。尤も、FF金利先物市場では、ターミナルレートを来年6月の4.8%に見ており、来年末には4.4%まで低下するとの織り込みがなされている。政策金利見通しの引き上げに呼応する形で、経済見通しも失業率上昇、成長減速、インフレ高止まりといったスタグフレーションの色彩が強まった(下表参照)。

週後半のセンチメント悪化に拍車をかけたのは小売売上高の大幅な低下など相次ぐ景気指標の下振れであった(下表参照)。米家計貯蓄率はコロナ以前の水準を大きく下回っており(下図参照)、3度にわたる現金給付ドーピングの効果は消失しており、今後の消費動向は厳しさを増すものと思われる。今週は"Bad news is bad news"的な逆業績相場時の反応が支配的となった印象。

"Bad news is good news"的な反応になるには、少なくとも市場の緩和期待の裏付けがなくてはならないが、FRBが明確に否定した以上、当面は期待できない。実際に、週末のFRB当局者発言では、株式市場を冷淡にあしらうようなタカ派発言が目立ち、市場との温度差が浮き彫りとなった(下表参照)。緩和転換を催促するなら、実体経済の悪化に応じた株価の下げ調整が済んでからにしてくれとFRBは言っているようなものだが、利上げが効きすぎて深刻なリセッションに陥るのも厄介なシナリオではある。当面、FRBが市場の期待に理解を示して、早期の緩和転換によってインフレ高進の再燃という可能性はかなり低いと考える。

ボラティリティは、債券がFOMCを機に政策金利の天井感が意識されての急低下となり、株式は小幅な上昇にとどまっており、動意は見られない。週末はトリプルウィッチングに伴う波乱も警戒されたが、商いが増えた割には大きな変動を伴っていない。Bloombergの記事では、市場がガンマロング状態にあるため、日中の振幅はあっても、前日比ベースでは逆張りヘッジによって変動幅は少なくなるとの指摘も出ている。実際、S&P500指数は11月のCPI発表以降、4000ポイントを挟んで上下100ポイントのレンジで概ね推移している。

米国債利回りは、カーブ全般で下げ基調が継続した。景気後退懸念から長期ゾーンも下げているが、下げ幅では短期ゾーンのそれが大きく、FOMC通過で政策金利の天井感織り込みが進展している。米ドルは小幅安だが、金利高の支援材料は当面期待しづらい。

今月に入って、逆業績相場で典型的な米株(S&P500指数)安&米債券(10年国債)高の日が多くなっている(下図参照)。金利低下(PER上昇)は株式市場にとって支援材料となるが、業績悪化(EPS低下)の織り込みはそれ以上の悪材料であり、株は下方向の圧力が高くなる。また、リスクオフの株安で買われた米ドルだが、今後は債券高で売られる展開が想定されるため、米株安&米債券高&米ドル安の組み合わせの頻度が高まることで、日本株にとっては米株安と円高のダブルパンチとなることで、下げの影響が増幅される恐れも高まると見る。

11月のCPI急減速以降の早期緩和期待相場では、金利低下によりPER上昇が米株高を牽引し、S&P500指数は8%上昇した(下表参照)。

一方、12月以降でS&P500指数は5%超下落しているが、PERとEPS両方がほぼ等しくマイナス寄与となっている。金利が小幅に低下しているが、PERが低下しているのは、業績悪化懸念による割高感の修正とも見て取れる。

来週も、住宅指標やPCEデフレーター等の景気指標の発表が予定されているが、注目度という点ではそれ程高くない。FRB高官の発言予定もなく、金融政策に関する手掛かり材料にも欠く。

警戒すべきなのは、フェデックス、ナイキ、マイクロン・テクノロジーの決算か?いずれも8月から9月にかけて見通しの下方修正や業績低迷の示唆を行っており、着地が実際に下振れた場合に、市場が出尽くしと判断せず、業績悪化の広がりとして蒸し返す可能性も考えられる。とりわけ、市場参加者のクリスマス休暇入りで流動性低下が見込まれる中では、反応は一層読みづらくなる。しかし、景気後退入りの公算が高まる中、来年1月中旬以降の本格的な決算発表シーズンの前哨戦として要注目である。市場の下げが続くのか?続くとしたらどのような規模とペースの下げになるのか?それは、FRBタカ派固執度合い=景気後退の深刻度合い=企業業績の悪化度合い次第である。

 

 

 

 

                                                                                                                                               

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Weekly Market Summary: 2022/12/9

12/5-12/9: 景気指標の予想上振れ相次ぎ、政策金利の長期高止まり連想から景気後退懸念が高まる"Good news is bad news"な展開

 

 

週間回顧と来週展望

今週は、景気指標の予想上振れが相次ぎ、市場の関心が政策金利の長期高止まりからのインフレ鈍化=リセッション懸念へシフトした。欧米株は軟調な展開となる中、先月は27%上昇となった香港株はコロナ規制緩和を好感して大きく続伸となった。ボラティリティは、来週の米11月CPIやFOMCなどの重要イベントを控えて、VIXが短期で大きな動意を見せ、9days>30daysのbackwardationとなっているが、絶対水準としてはまだ低位にある。

米国債利回りは、利上げ幅縮小期待の後退から週末に上昇したことから、週間では小幅高となった。一方、原油の大幅安からのインフレ期待の低下を受けて、実質金利は大きく上昇した。

来週は、とにもかくにも、CPIとFOMCである。今週のPPIの予想上振れがCPIの上振れへの連想を強めた感はある。FOMCはドットチャートから窺えるターミナルレートの上振れ幅と2023年の利上げ打ち止めと2024年の利下げ見通しが最重要である。9月FOMCでは、2023年に25bpsの利上げと2024年に75bpsの利下げを見込んでいたが、市場が懸念する政策金利の長期高止まりに関しては、2024年の見通しがより市場の注目を集めると思われる。しかし、一喜一憂を繰り返す株式市場故に、イベント後の反応は非常に読みにくい。

 

中国のコロナ規制緩和のインフレ及び株式市場への影響

欧米ではインフレの鈍化が見え始めている。しかし、中国のコロナ規制緩和は経済再開に伴う成長回復により注目が集まっているが、感染拡大に歯止めがかからないリスクと裏腹である。結局のところ、前者は需要拡大、後者は供給制約を通じてどう転んでもグローバル経済へのインフレ圧力を高めることになる。

人口の高齢化による労働市場の供給制約、地政学リスクからの脱グローバル化による財の供給制約、欧州主導のネットゼロ移行によるエネルギーの供給制約などインフレ再燃の火種はそこかしこに存在している。いずれにしても、来年もマクロ環境やリスク資産のボラティリティは高くならざるを得ないということか。

Bloombergの調査によると、機関投資家の71%が来年の株価上昇を見込み、その回答者は平均で10%の上昇を予想しているとのこと。尤も、インフレ高止まりやリセッション入りから年前半に対しては弱気見通しとなっており、年後半からの株価上昇を予測しているとのことだが、個人的にはやや楽観に過ぎると感じる。

S&P500の予想PERは、積極的利上げを織り込む形で、年初の約23倍から足元では約18倍まで低下しているが、実質金利水準から見た妥当なPERは約16倍であり、割高感は残る(下図参照)。一方、政策金利の高止まりからリセッション入りの公算が高まっているが、予想EPSは今年5月のピークから7%しか低下しておらず、業績面での楽観は依然強い。来年1月中旬以降の決算発表シーズンが正念場か?

 

 

 

 

                                                                                                                                               

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